福島地方裁判所 昭和63年(モ)90号 決定 1988年7月14日
福島県双葉郡大熊町大字熊字新町一七六番地の一
原告
医療法人双葉病院
右代表者理事
鈴木市郎
右訴訟代理人弁護士
戸田満弘
同
佐島和郎
同
船木義男
福島県相馬市中村字曲田九二の二
被告
相馬税務署長
菅正広
右指定代理人
猪狩俊郎
同
高橋静栄
同
橘内剛造
同
笠原克洋
同
津島豊
同
高橋明
右原告から当裁判所昭和六二年(行ウ)第三号法人税更正処分等取消請求事件につき文書提出命令の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件申立を却下する。
申立費用は原告の負担とする。
理由
一 本件文書提出命令申立の要旨は、「原告が昭和四二年度ないし同四五年度において仕入れた医薬品に関し、サンプルを受け取つていなかつた事実を立証するために、『仙台国税局が、原告の昭和四二年度ないし同四五年度の法人税に関し、法人税法違反の嫌疑で行つた査察事件について、ヒルナミンその他の医薬品のサンプル、値引きに関してシオノギ製薬その他の製薬会社における調査結果を記載した昭和四七年七月頃作成の調査報告書』(以下「本件文書」という。)が必要であり、本件文書は、民事訴訟法三一二条三号前段及び後段に該当し、その所持者である被告もしくは仙台国税局が提出義務を負担する文書であるから、右の者らに対する文書提出命令を求める。」というにあり、これに対して被告は、本件文書は、民事訴訟法三一二条三号前段及び後段に該当せず、被告もしくは仙台国税局はその提出義務を負つていないので、本件申立の却下を求める旨述べた。
二 当裁判所の判断
1 本件記録によれば、本件の本案訴訟は、原告が被告に対して別紙記載の各行政処分(以下「本件各処分」という。)の取消しを求め、その理由として、被告が各事業年度における法人税の各更正処分の理由とした各事実、特に、原告による架空薬剤費計上の事実がないと主張するものであるが、被告は、昭和四三年三月期の法人税の確定申告において原告代表者が現金で仕入れたとしている医薬品の仕入れ金額については、原告の帳簿に記載がなく、その仕入れ及び代金支払の事実を証する納品書、請求書、領収書等の証ひようがないうえ、原告代表者自身が、査察官の調査の際に、架空薬剤費の計上の事実を認めていたこと、各事業年度の法人税確定申告の際に東京衛材株式会社及び三東薬品商会から医薬品の仕入れをしたとしていた金額については、右東京衛材株式会社が昭和三六年ころ倒産して営業を行つていなかつたこと、三東薬品商会は全く存在しないことなどを理由として、右各仕入れ金額が架空である旨を主張する。
2 そして、右架空薬剤費計上の事実があつたことの理由として原告が医薬品を製薬会社から購入した際に無料のサンプルがあり、これに相当する金額を医薬品費として計上した事実を被告が主張していることを前提に、原告は、そのようなサンプルがなかつたことの証拠として、仙台国税局が製薬会社において医薬品のサンプル等について調査した結果を記載した調査報告書の提出を求めて本件文書提出命令の申立をしたものである。
3 しかし、被告は、本件訴訟において、本件各処分の適法性の理由として、原告が医薬品を製薬会社から購入した際に無料のサンプルがあつたとの主張をまだ行つてはおらず、したがつて原告が右のサンプルがなかつたことの立証を行う必要があるとは言えない。
4 さらに、民事訴訟法三一二条三号前段の「挙証者の利益のために作成された文書」とは、後日の証拠のために、又は権利義務を発生させるために作成された文書と解せられるところ、本件文書は、査察官が調査した結果を、本件処分を行う際の検討資料等とするために作成した内部的文書であり、証拠として又は権利義務を発生させるために作成された文書とは認め難く、本件文書が民事訴訟法三一二条三号前段に該当する文書であるということはできない。
5 また、民事訴訟法三一二条三号後段の「挙証者と文書所持者との間の法律関係に付作成された文書」については、挙証者と文書所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書のほか、右法律関係と密接な関係のある事項を記載した文書で、これを提出させることが当該文書の性質に反せず、訴訟における信義、公平に適し、かつ、裁判における真実発見に重要な場合も含むと解することができるが、本件文書が、原告と文書所持者との間の法律関係それ自体を記載したものではないことは明らかであるうえ、右4説示のような内部的文書であつて、原告と文書所持者との間の法律関係に密接な関係のある事項を記載した文書であるとは言い難く、さらに、右3のとおり、本件訴訟では、未だ前記サンプルの存否が争点となつているわけではないのであるから、本件文書が本件の裁判の真実発見に重要であるとも言い難く、結局、本件文書は民事訴訟法三一二条三号後段に該当する文書であるということはできない。
6 そうすると、本件文書の提出命令申立は、必要性がないばかりでなく、提出命令の要件を欠くから、これを却下し、申立費用は原告に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 大内捷司 裁判官 都築政則)